夏になると、田んぼでは「防除」と呼ばれる作業が行われます。
これは病気や害虫から稲を守るための工程ですが、「なぜ農薬を使うの?」「安全なの?」と疑問に感じる方も多いのではないでしょうか。
実際、稲はとてもデリケートで、適切な対策をしなければ収量や品質に大きな影響が出てしまいます。
この記事では、夏場の防除の目的や具体的な方法、そして当農園の防除について解説します。
なぜ稲に防除が必要なのか?
稲作において、防除は欠かすことのできない重要な作業です。
というのも、稲は病気や害虫の影響を受けやすく、何も対策をしないまま育てるのは難しい作物だからです。
ここでは、防除を行う理由について、収量と品質の観点から解説します。
放置すると収穫できないこともある
稲は一見たくましく見えますが、実際にはさまざまな病気や害虫の影響を受けやすい作物です。
特に夏場は気温や湿度が高くなり、病気や害虫が発生しやすい条件が揃います。
例えば、いもち病のような病気が広がると、葉や穂が枯れてしまい、十分に実が入らなくなります。
また、ウンカなどの害虫が大量発生すると、稲の養分を吸い取られて株ごと枯れてしまうこともあります。
こうした被害が広がると、収穫量が大きく減るだけでなく、最悪の場合はほとんど収穫できないという事態にもなりかねません。
そのため、農家は事前に防除を行い、被害を未然に防ぐ必要があるのです。
品質や味にも影響する
防除が必要な理由は、収穫量だけではありません。
実は、お米の品質や味にも大きく関わっています。
例えば、カメムシなどの害虫に吸われたお米は「斑点米」と呼ばれ、見た目が悪くなります。
こうしたお米が増えると、全体の評価が下がり、等級にも影響します。
また、病気や害虫の被害を受けた稲は、十分に栄養を蓄えることができず、粒の中身が詰まらないことがあります。
その結果、炊き上がりの食感や甘みにも影響が出ることがあります。
つまり、防除は単に収穫量を守るだけでなく、見た目の美しさや美味しさを保つためにも重要な作業なのです。
稲に発生しやすい代表的な病気と害虫
ウンカが発生した田んぼ稲にはさまざまな病気や害虫が発生しますが、すべてを細かく覚える必要はありません。
まずは「どんな被害があるのか」「なぜ防除が必要なのか」をイメージできることが大切です。
ここでは、特に代表的なものをいくつか紹介します。
いもち病
いもち病は、稲の病気の中でも特に有名で、最も注意が必要とされている病気です。
カビの一種が原因で発生し、葉や穂に広がっていきます。
発生しやすい条件としては、以下のような環境が挙げられます。
- 気温がやや低めで湿度が高い
- 雨が続くなど、葉が濡れている時間が長い
- 風通しが悪い
この病気にかかると、葉に白っぽい斑点が現れ、次第に広がっていきます。
さらに進行すると、穂にも影響が出て、十分に実が入らなくなることがあります。
被害が広がると収量に直結するため、農家にとっては最も警戒すべき病気のひとつです。
紋枯病などのその他の病気
いもち病以外にも、稲にはいくつかの病気が発生します。
その中でも代表的なのが「紋枯病(もんがれびょう)」です。
紋枯病は、茎の部分に発生し、株元から広がっていくのが特徴です。
発生すると株が弱り、倒れやすくなるため、結果的に収量や品質に影響が出ます。
そのほかにも細かな病気はありますが、いずれも共通して言えるのは、発生すると稲の体力が落ち、最終的なお米の出来に影響するという点です。
カメムシ・ウンカなどの害虫
病気だけでなく、害虫による被害も無視できません。
特に注意が必要なのが、カメムシやウンカといった害虫です。
カメムシは、穂に実が入る時期にお米の中身を吸ってしまう害虫です。
被害を受けると「斑点米」と呼ばれる黒い斑点がついたお米になり、見た目が悪くなります。
一方、ウンカは稲の茎から養分を吸い取る害虫で、大量に発生すると株ごと枯れてしまうこともあります。
実際に大発生すると、田んぼの一部が一気に枯れるような被害になることもあります。
当農園のある地域でも、数年前にウンカが大量発生し、稲が枯れたようになっている田んぼが多く見られた年がありました。
このように、害虫による被害は
- 見た目の品質を下げる
- 収量を減らす
といった影響があり、放置することはできません。
防除の方法|どのように農薬を散布するのか
防除と聞くと「農薬をまく」というイメージがあるかもしれませんが、その方法は一つではありません。
田んぼの規模や立地、設備によってさまざまなやり方があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。ここでは、代表的な防除方法を紹介します。
手作業での散布(動力噴霧機)
最も基本的な方法が、動力噴霧機(どうりょくふんむき)を使った手作業での散布です。
エンジンやモーターで圧力をかけた水に農薬を混ぜ、ホースやノズルから噴霧します。
この方法の特徴は、自分の目で見ながら細かく調整できることです。
例えば、
- 水の量や霧の広がり方を調整できる
- 稲の状態を見ながら散布できる
- 必要な場所にしっかり届かせられる
といった点がメリットです。
一方で、実際には田んぼの中に入ってホースを持ちながら作業するため、体力的な負担は大きくなります。
特に夏場は気温も高く、重いホースを引きながらの作業はなかなか大変です。
ラジコンヘリやドローンによる防除
近年増えているのが、ラジコンヘリやドローンを使った防除です。
空から農薬を散布することで、広い面積を短時間で処理できるのが大きな特徴です。
この方法のメリットは以下の通りです。
- 広い田んぼでも短時間で作業できる
- 人が田んぼに入らなくて済む
- 作業の省力化・効率化につながる
特に大規模な農家では、一日で多くの面積を処理する必要があるため、こうした方法が主流になりつつあります。
当農園の防除方法
ここまで一般的な防除方法を紹介してきましたが、実際の現場では農家ごとにやり方が異なります。
ここでは、当農園で行っている防除方法について、具体的に紹介します。
ホース式散布機での作業
当農園では、ホースをつないで使用する動力噴霧機を使い、人が田んぼの中に入って農薬を散布しています。
ポンプで圧力をかけた水に農薬を混ぜ、ホースの先についたノズルから霧状にして散布していく方法です。
実際の作業では、田んぼの中を歩きながら、稲の上にまんべんなくかかるように調整しつつ進んでいきます。
自分の目で稲の状態を確認しながら散布できるため、必要なところにしっかりと農薬を届けられるのが特徴です。
ただし、この方法は体力的にはかなり大変です。
稲が成長し、水が張られた田んぼの中は足を取られやすく、思うように動けません。
さらに、長いホースを引っ張りながら移動する必要があるため、このホースの重さも大きな負担になります。
作業の流れと時間
防除作業は、夏場の暑さを考慮して、できるだけ涼しい時間帯に行います。
当農園では、朝7時頃から作業を開始し、気温が上がる前の10時頃には終えるようにしています。
1回の作業時間自体は比較的短いものの、田んぼの中での移動やホースの取り回しなど、体への負担は大きい作業です。
特に夏場は気温も高く、短時間でもかなり体力を消耗します。
全体としては、当農園のすべての田んぼを防除するのに、おおよそ2日ほどかかります。
一気に終わらせる必要があるため、天候を見ながらタイミングを調整することも重要です。
見た目以上に負担の大きい作業ですが、こうした手間をかけることで、病害虫から稲を守り、品質の良いお米づくりにつなげています。
実際に使用している農薬とその役割
防除と聞くと「農薬=危険」というイメージを持つ方もいるかもしれません。
しかし、実際には目的に応じて適切に使い分けることで、稲を守るために欠かせない役割を果たしています。
ここでは、当農園で使用している農薬について、それぞれの役割をわかりやすく紹介します。
殺虫剤(害虫対策)
害虫から稲を守るために使用するのが殺虫剤です。
害虫は目に見えにくいことも多く、気づいたときには被害が広がっていることもあるため、適切なタイミングでの対策が重要です。
当農園では、主に以下の農薬を使用しています。
ハイテンパワー
カメムシやウンカなど、稲に被害を与える害虫に効果があります。
これらの害虫は、稲の養分を吸ったり、お米の品質を下げたりするため、発生前後のタイミングで防除を行います。
トレボンEW
こちらもカメムシ類を中心とした害虫に効果があり、特に穂が出た後の時期に重要な役割を果たします。
斑点米の発生を防ぐために使用されることが多い農薬です。
殺菌剤(病気対策)
稲の病気を防ぐために使用するのが殺菌剤です。
病気は一度広がると止めるのが難しいため、発生前や初期段階での予防が基本です。
当農園では、以下の農薬を使用しています。
ビームエイトEXゾル
主にいもち病の防除に使用します。
いもち病は広がりやすく、被害が大きくなりやすいため、予防的に使うことが重要です。
バリダシン
紋枯病などの病気に効果があります。
株元から広がる病気を抑えるために使用し、稲の健全な生育を支えます。
除草剤
防除とは少し役割が異なりますが、雑草対策として除草剤も使用しています。
雑草対策は水管理でもある程度行えますが、除草剤を併用することで、より安定した栽培につながります。
ロンダムゾル
田んぼに発生する雑草を抑えるために使用します。
雑草が増えると、稲と養分や光を奪い合うことになるため、初期の段階でしっかり抑えることが重要です。
農薬は危険?使う理由と安全性について
「農薬」と聞くと、不安や抵抗感を持つ方も多いと思います。
実際に口に入るものだからこそ、安全性が気になるのは当然です。
ここでは、農薬を使う理由と、どのように安全性が保たれているのかについて、現場の視点でお伝えします。
農薬を使わないとどうなるのか
まず前提として、農薬をまったく使わずに稲を育てるのは難しいのが現実です。
特に夏場は、病気や害虫が発生しやすい環境が整うため、何も対策をしなければ被害が一気に広がる可能性があります。
例えば、
- いもち病が広がり、穂に実が入らなくなる
- ウンカの大量発生で株ごと枯れてしまう
- カメムシによって斑点米が増える
といったことが実際に起こります。
こうした被害が広がると、収穫量が大きく減るだけでなく、最悪の場合はほとんど収穫できないこともあります。
その結果、その年の収入がなくなり、経営的に大きなダメージを受けてしまいます。
場合によっては、農業を続けること自体が難しくなるケースもあります。
つまり農薬は、お米を安定して生産するための“守りの手段”として使われているのです。
必要最低限で使っている
農薬は、やみくもに使っているわけではありません。
実際には、必要なタイミングと回数を見極めて、最小限に抑えるように管理しています。
例えば、
- 病気が発生しやすい時期に合わせて使用する
- 害虫の発生状況を見て判断する
- 効果が出る範囲で使用量を調整する
といった形で、状況に応じて使い方を変えています。
また、水管理や栽培方法によって病害虫の発生を抑える工夫も行っており、農薬だけに頼らない管理も重要です。
その上で、必要な場面に絞って使用することで、リスクと効果のバランスを取っています。
安全基準と出荷前の管理
農薬には、使用方法や使用回数、収穫までの期間など、細かなルールが定められています。
これらの基準を守ることで、収穫時には安全性が確保された状態になります。
例えば、「収穫の何日前まで使用可能」といった決まりがあり、それを守ることで農薬の成分が残らないように管理されています。
農家はこうしたルールに従って農薬を使用し、出荷前にも確認を行っています。
また、もし基準値を超える農薬が検出された場合、その影響は個人の問題にとどまりません。
出荷停止や回収といった対応が必要になるだけでなく、産地全体の信用低下につながる可能性もあります。
これは、他の農家や地域全体にとっても大きなダメージとなります。
そのため農家は、ルールを守ることはもちろん、日々の管理や記録を徹底しながら、安全性を前提としたお米づくりを行っているのです。
まとめ
稲作における防除は、病気や害虫から稲を守り、安定した収穫と品質を確保するために欠かせない作業です。
見えにくい部分ではありますが、夏場の暑い中での防除作業や日々の管理など、農家は多くの手間と時間をかけてお米を育てています。
また、農薬についても、やみくもに使っているわけではありません。
当農園でももちろんのこと、必要最低限に抑え、適切なタイミングで適切な量を守って使用しています。
これは、お米の品質を守ると同時に、安全性にも配慮した栽培を行うためです。
普段何気なく食べているお米の裏側には、こうした管理と工夫があります。
この記事を通して、お米づくりの現場を少しでも身近に感じていただければ嬉しいです。


